Carbon and Chromoly Frame

project5 3年前くらいにご依頼を頂いたカーボンフレーム+クロモリラグの自転車フレームです。以前紹介した画像が80枚くらいあって内容もバラバラだったので改めて纏めて紹介いたします。

こちらのフレームは元々新車に組まれた物だったのですが、細部の仕上がりが気に入らないとの事で、既存のデザインはそのままに全てをやり直す事となりました。

project1塗装自体は艶もあって普通に綺麗なのですが、ハンドメイド品でよくありがちな微妙なラインのズレなどがあって、それらを修正しつつ、購入したショップの方に塗り直した事が判らないようにと言う特殊なご依頼でした。車で言うと、新車で買ってそのまま公道を走らずレストア屋さんに出すような感じです(なので通常あり得ませんよね)。

project2通常量産品では無い塗装の場合、大抵は被塗物に直接マスキングテープを貼り、柄を入れたい箇所に鉛筆などでマーキングしたらそこをカッターでカットする方法が一般的です。それ一台の為だけなので型を取る必要も無いですからね。

ただそれだと自然な曲線が描き難く、また左右で形や位置が変わってしまう可能性があります。どうしても人の手で行う以上それは仕方ありません。

勿論こう言うのも「ハンドメイドの味」と言えばそれで良いのですが、私が元々行っていた自動車の補修塗装(事故車の板金塗装)では、人の手が加わったような跡は見せないようにする(=直した事が判らないようにする)と言う事が基本なので、通常そういったフリーハンド的な作業は行わないのが一般的です。どうやっても左右対称に同じ形の柄にカットするなんて事は出来ませんからね。

さらに車の場合は屋外放置や長い年月雨風にさらされても問題の起きない塗膜にする事が必須なので、被塗面に直接カッターの刃を入れると言う事は通常行わないので、そもそもそういう発想が無い、と言う事もあったりするのですが(恐れ多くて出来ません…)。

project3と言う訳でまずは各ロゴの型取りです。

基本的な作業が「元の通りに」と言う事なので、既存のデザインを2次元のデータにしてから細部を修正していきます。

projectm2現車から写した形を一旦スキャナーでパソコンに取り込み、その後グラフィック系のソフトを使い、自然で美しい形状のラインに修正します。

projectm また形状自体がオーナー様の好みでは無い所もあるので(少々ボッテリしていました)、その辺のデザインも修正します。

projectm1 参考として頂いた画像を元にラインを修正し、プリントアウトした物を実際にフレーム当てて確認しています。

project4オーナー様にも確認して頂きながら形を決めていきます。ただしあくまでもオリジナルの形状から変わったと判らない範囲にします。

project10外装のデザインを全て数値化してデータ化出来たら塗膜を剥がします。

project12既存の塗膜が結構分厚かったので、当店ではチューブ(パイプ)の部分のみをペーパーで剥がし、形が複雑なラグ部分に関してはサンドブラスト専門のショップさんに剥離をお願いする事にしました。

project1細かい部分まで塗装を剥がしました。

project3よく脱脂清掃をして、下塗り準備を行います。

project4今回のご依頼では長く大切に乗りたいと言う事で通常のプライマーよりも耐食性が高く分子間の結合性が強い、浸透型のエポキシプライマーを使用する事にしました(自転車フレームに限らず重防錆仕様といったオプションにて承っております)。

project5続けてウェットオンウェットで2液のウレタンサフェーサーを塗布します。

project8ラグの溶接部分はパテが使われていたようで、塗膜を全部剥がす継ぎ目がガタガタとしていました。

クロモリに直接パテを付けても良かったのですが、パテ自体に防錆効果は無いので最初にプライマーを塗りたかったのです。

project14溶接部分に使ったのはポリエステル系のパテで、さらに通常のポリパテに比べると非常に柔軟性のあるタイプを使用しています。

project15フレーム全体を研ぎ出します。

project16ここまでは#320→#400の研ぎで、さらに細部を綺麗に仕上げたいのでもう一度サフェーサーを塗布する事にしました。

project182度目のサフェーサーの塗布が完了です。

project19ラグの溶接部分も美しいラインになってきました。

project20この後熱を掛けて塗膜を硬化させます。

project9再び#320の空研ぎで全体のラインを整え、最後は#800でペーパー目を均します。

project10シャープにする箇所と滑らかにする箇所それぞれメリハリを付けながらラインを整えていきます。

project21そしてようやく本塗り準備完了です。ただし本塗りと言っても今回はロゴやカラーリングの塗装は別工程で行なうので、形としては本塗りですがこの段階ではまだ下塗りとなります。

project24ベースカラーとなるホワイトパールの塗装が完了です。

project25むやみに塗膜を厚くしたくは無かったので、クリアーは1コートのみで終わらせています。

project26ラグの継ぎ目も綺麗に仕上がっていると思います。

project27project28この後はいつもと同じ様に60℃40分熱を掛けて強制乾燥させます。

project13ラインの色も新車時のオリジナルを基本にしつつ、オーナー様好みの色を色見本から選んで頂きました。さらにそこから色を作成しています。

project14ラインの他にメーカーロゴやネームもご依頼頂いておりまして、事前にそちらも色も選んで頂いております(ただしそれらについては控えていますので撮影はしていません)。

project32一旦下塗りとして仕上げられたホワイトパールに足付け処理を行いました。ホワイトパールは艶が無くなるとパール感が見えなくなるので単なる白に見えます。

project30通常通りに本塗りの準備を行い、まずは「ベースクリアー」を塗りました。これはその名の通りベースコートのクリアーで、この後に塗る紫色の塗装のフチの仕上がりがシャープで美しくなるようにする効果があります。自然乾燥でマスキング作業が可能です。

project33ベースクリアーがテープフリーな状態になったら場所の工場に二階に移し、用意しておいたデータを元にマスキングを行ないます。

project34まずはラインを入れる位置を決める為、ガイド用として用意したマスキングシートを貼り付けます。

project35左右の位置が決まったら、それの枠となる部分のマスキングシートを貼り付けます。

最初に貼ったシートはもう必要無いので剥がします。

project36これで雌型のマスキングが完了です。少々面倒ですが左右のラインを対称にしつつ、美しいラインに仕上げる為にはこの方法が有効です。

project38こちらも同じ様に最初にガイド用のマスキングシート(グリーン)を貼り、それに沿って周りをラインテープでマスキングしていきます。

project37オリジナルのラインを参考にしつつ、出来る限り左右対称になるよう位置を決めています。

project39フォークのラインもフレームと同じように最初はガイド用のシートから貼ります。

project40実は最初にラインの色(紫)を塗ってしまえば手っ取り早いのですが、ホワイトパールは隠蔽力が弱いので無用に膜厚が付いてしまい、塗膜の強度もそうですが見切りのラインの仕上がりが悪くなるのでわざわざこうしています。

project41ようやく全てのマスキングが完了し、再び工場一階の塗装ブースに場所を移します。

project42まずはロゴやネーム部分を塗装します。

project43そしてライン部分の塗装いですが、アールがきつい箇所はマスキングが浮いてしまい、このように見切りのラインが悪くなっている箇所があります。

project44今回はベースカラーのホワイトパールの上に完全硬化したクリアーが塗ってあるので、食み出た色はシンナーで拭き取り、再度その部分のみ修正が可能です。

project45限りなく左右を対象にしつつ、シャープで美しい見切り線のラインに仕上がったと思います。

project47そしてようやくクリアー塗装です。

project49この辺りも新車時と同じ様なデザインにしてあります。

project16カラーリング自体はショップオリジナルのデザインのままですが、下地から全てやり直し(旧塗膜を剥がし)、塗膜自体のクオリティを上げて元に戻した、といった仕上がりとなっています。

project17カーボンチューブとクロモリラグの継ぎ目には研いだ時に出来るような研ぎスジなど無く、まるで機械で作られたような質感に仕上げられたと思います。

project18ラインのデザイン自体もシャープに修正してあって、元々塗料が食み出たような箇所がありましたがそういうのも全て払拭しました。

project19ラインの形はフリーハンドによるカットでは無く一つのデータから左右反転にした物を切り出しているので、形状自体は完全なシンメトリーに出来ています。

project20機械で作られた10000個の内から一つを抜き出した、と言うような仕上がりを理想としています。

project20今回の塗膜構成をイラストにしてみました。また途中工程で熱を入れているところも判るようにしています。

研ぎやマスキングなどの実作業は全て省いていますが、途中工程で足付け処理無しで塗装すると言うことは一切していません。カーボンの新車塗膜でクリアーだけがペリペリと剥がれるのはこの足付け処理を省いているからで、最初は良いのですが、物理的な処理がされていないので数年経って塗膜が劣化してくると密着性が無くなり剥がれ易くなって来ます(私のTREKもまさにその状態です)。

project21尚、ここまでの作業を行なうと期間は半年程度掛かり、また費用についてもオーダーメイドのフレームが新品で買えてしまうような金額となってしまう為、実際のところは余り現実的では無い気がします。

また商売として採算を合うような事では無く、余りの心労で体を痛めてしまう為、現在は自転車フレームのご依頼を一時停止させて頂いております。

誠にご迷惑をお掛けして申し訳御座いませんが、何卒御理解頂ければ幸いです。