こちらはヴィオラ・ダ・ガンバなる弦楽器のカーボンケースで、全体にちょっとした小傷があるとの事でプロの演奏者の方から修理のご相談を受けました。
しかし傷よりも気になったのがこちらのケース全体に出ているカーボンの繊維目で、まるで蛇の鱗のようになってしまっています。
今回はこれも払拭するべく、下地からやり直して塗装を行う事にしました。
付属品は全て取り外し、また今後のメンテナンス性と意匠性を踏まえ、元々固定に使われていたリベットはボルトナットに交換する事にしました。
ケースの周りには蝶番・ロック・取っ手などが固定されています。
ケースの内部は全体にウレタンシートを貼っているので、リベットの箇所のみをカッターで切り取り、リベットを取り外します。
楽器の固定用としてケースの中にマジックテープで貼ってあったパーツです。それぞれ元の場所に戻せるようマーキングして保管しておきます。
リベットで固定されていた外装部品も元に戻せるよう整理して保管しておきます。
リベットを取り外す際にカットしたウレタンシート部分に使う新たなウレタンシートを用意しておきます。塗装を終えて組み付けが完了したらこれを使って穴を開けた部分に被せます。
これらの細かい凸凹模様は傷では無く、下地から起きている問題です。
問題の箇所を削ってみると下地にはラッカーパテのような物が多用されていて、あれらの変な模様は恐らくこれが原因と思われます。1液性の溶剤揮発型樹脂はこういう問題が起こるので今時は多用しないのが一般的です。
平滑な下地を作る為、全体に2液型のウレタンサフェーサーを塗布します。
その後熱を掛けて完全硬化させ、さらに全体を削って平滑なラインに整えます。
元々リベットで固定されていた外装部品は全てボルトナットに変更します。
ただしネジが突起してしまうと中に収める楽器に傷が付いてしまう為、ここがピッタリになるようにネジを加工します。
ボルトカッターを使い、それぞれの部位に合わせてネジを短くカットしました。
このような感じでネジがナットを飛び出さないように仕上げます。
本塗り後にこれらの作業を行うと無用に傷を付けてしまう可能性がある為、付属部品はある程度先に仮合わせをしておきます。
色についてはどうせ塗り直すのであれば全く別の色に!と言う事で、オーナー様よりこちらのポルシェの淡いブルー色を選んで頂きました。
ご依頼が決定された方には無料で色見本帳をお貸出ししておりますのでどうぞお気軽にご利用下さいませ。
そして本塗り前に最後の仕上げとして、塗装面は#800~#1300程度の細かいペーパー目に整えます。
被塗物が地面に対して平行になるように台にセットし、いよいよ本塗開始です。
クリアーは2液性のアクリルポリウレタン樹脂で、今回は高品位なタイプのSTANDOXクリスタルクリアーを使用しています。
高品位なクリアーは美観も当然ですが、耐擦り傷性・耐UV性、耐薬品性などに優れています。
その後60℃程度の熱を40分以上掛けて塗膜を完全硬化させます。
固定箇所の一部で工具が入らない箇所があったのでナットを加工しました。
全ての組み付けが完了したら、内側のカットした部分にウレタンシートを貼ります。
新たに用意したウレタンシートを貼る部位のサイズに合わせてカットします。
しかし完成後、取り付けた部品が塗膜に強く当たり過ぎて一部で塗膜を持ち上げてしまう問題を発見し、急遽こちらも修正~改善する事にしました。
対策方法としては、部品と本体の隙間に薄いABS樹脂製の板を挟む方法で、固定具と同じ形を一回り大きいサイズにした物をレーザー加工機で切り取ります。
こちらがそのスペーサーです。固定具のエッジが塗膜に当たらないギリギリの厚さのアクリル板を内側に嵌め込みました。
こちらは黒いABS板から切り出したワッシャー替わりのスペーサーです。少々判り難いですが、固定具よりも少し大きめに切り出した板が下に敷いてあります。
こちらも同じように間に挟み込み、これで固定具が塗膜を痛める心配も無くなりました。
オーナー様には非常に喜んで頂き、先方様のオフィシャルウェブサイトでもご紹介頂きました。
楽器本体の塗装となると難しい面もありますが、今回のように分解が可能なケースなどであれば塗装が可能な物もあります。詳しくはお問合せ下さいませ。