小物塗装の費用について

最近で一番お問合せが多いのがこちらのロジクールのワイヤレスマウスで、ただ皆さんが思っているよりも塗装費が遥かに高いと感じられているせいか、ご依頼に至るケースは極稀です。

確かに製品自体の金額は2万円くらいなので、「どうせ塗っても2万円以下で済むだろう」と思われるかも知れないのですが、塗装費は製品の金額によって決まる訳ではありませんので、実際そうとは限らないのです。¥100ショップで買った物でも数万円の塗装費が掛かる事がありますし、また50万円のイヤホンだからといって塗装費が50万円以上掛かる訳ではありません。塗装の費用はそれに掛かった(掛かるであろう)時間によって金額が決まります。所謂「レーバーレート」=「時間工賃」です。

尚、このレーバーレートには会社によってそれぞれ違いがあって、車を塗装する場合は通常一時間当たり¥7,000~¥12,000くらいで(当時私は国産車は¥7,000、外車は¥8,000でやっていました)、例えばベンツのドアの塗装指数が5時間であれば「¥8,000×5=¥40,000」となります。以前使っていたアウダネオだと基礎加算数値からの算出なのでまた違った方法となりますが、今回は無視します。というかあの保険会社が勝手に決めたようなシステムはまだ健在なのでしょうか。

ちなみに小物塗装となった今ではさらにコストを落としていて、実質一時間¥2,000~¥5,000くらいでやっています(しかもこれをスタンドックスで)。ご依頼を頂いた物の中には初めて扱う物もあるので一万円で見積もりをした仕事に5時間掛かってしまう事もあれば、2万円の仕事がきっちり4時間で終わったりする事もあります。

またこの時間工賃にはメールでのやり取りなどの業務も含まれていて、【お任せ仕上げコース】のコストが安いのはそういう事を簡略化しているからでもあります。また受付窓口を設けていないのもこれの為で、「家が近いから」「直接見てもらった方が楽だから」といって当店がそこに時間を掛けてしまうと、遠方から発送でご依頼頂いている他が不利益になってしまうという事でご遠慮を頂いています(それ以外にも作業を中断したくないという事があります)。

と少し話が逸れてしまいましたが、今の小物塗装でもなんとかやっていけるのはそれぞれの作業を細分化して見積もりの内訳を明確にするようにしているからでもあります。

例えば今回のロジクールのワイヤレスマウスですが、これの塗装費を合計すると7万円くらいとなります。この金額だけからするとボッタくりと思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、実際にはそれでも採算が合っているとは言えず、これは実際にやって頂かないと判りにくいかも知れませんが、例えば車の塗装屋さんから考えるとボンネットを3枚(3台)塗っていた方が作業的にも時間的も断然楽な筈です(勿論車体からの脱着無しでマスキング作業~磨き処理も含めて)。ボンネットは車が変わっても大抵同じ作業として出来ますが、これはそういうレベルではありません。

それぞれの金額を簡単に説明しますと、まず一番大きいカバーパネルの塗装が¥15,000くらいとなります。高いのか安いのかは判りませんが最低この金額は頂かないと会社が成り立たなくなります。これが自宅兼職場ならもっと安く出来るかも知れませんが、賃貸で工場を借りてスタンドックスの塗料を使い、自動車ボディと同様の塗膜を提供しようとすると今はこれくらいの金額がどうしても必要です。

そしてクリックボタンは一個¥5,600、両サイドにある小さいボタンは一個¥2,400、これら全部で11部品となっています。尚これらの金額は複数割引が適用された単価ですのでボタン一個が¥2,400で塗れる訳ではありません(その金額だと受ければ受ける程赤字になります)。

という訳で、ここまでであればそこまで費用は高くならないのですが、今回の場合「G」のロゴとインジケーターランプ部を光るように残さなければならない!という作業があるので、当然その分の費用が掛かります。むしろこれの方が手間も神経も遣います。

まずは元々ある段差を無くす為に、最初にクリアーを下塗りとして塗ります。当然足付け処理とマスキングもしているので本塗りとほぼ変わらない内容となります。

Gのロゴをマスキングする為にも費用が掛かります。陶芸にあるような「手作り感のある味」と言うのはここでは一切払拭したいので、カッターで手作業で切ったりはせず、サイズを変えた数種類のマスキングシートを作成して精度を出しています。クリアー下塗りと「G」のマスキングについての作業が3時間として、ここでの費用は¥15,000くらいでしょうか。

またインジケーターランプ部のマスキングが三か所あって、これが一か所あたり¥3,500となっています。マスキングだけするのにこの値段は少々高く感じるかも知れませんが、下塗りと上塗り、またベースコートとクリアー塗装時にそれぞれ貼り直しているのでトータルすると4回=12個分、元の下地の黒が見えてはいけない!という中での作業としては決して高くは無いと思っています。

またこれは費用に計上していないのですが、「マスキングの段差が残るのが嫌だ!」という私的な希望もあり、艶消しクリアーの前に一旦艶ありクリアーを塗ってその段差を消していたりもします。塗装工程が一回分多くなる訳ですが、この辺は特段注文を受けた訳ではないので自分の時間を削って対応しています。当店が常に忙しいのに儲かっていないのはこういう事が理由で、最初にスタートした時の口座残高200万円には未だ到達していません(ただ工場引っ越しの為に借りたローンがようやく来年終わります!)。

そもそも大量生産で数万~数十万個を製造するのとは違い、一個だけのオーダーでは試作品を作るような内容ですからコストが上がるのは当然で、ただそれを全ての方に判って貰うというのはやはり難しいかと思いますので、見積もりではそれぞれの内訳を明確に出来るようにしています。

と言う訳で、特段「この仕事はうちが独占する!」と言う訳では全くありませんから、「うちならもっと安く出来る!」というのは全然構いません。分解の仕方も詳しく紹介していますので、是非チャレンジして頂ければと思います。

6 thoughts on “小物塗装の費用について

  1. いやーもう痛いほど分かります<作業工賃
    ミニカーの分解塗装やらロゴ作成やら、塗装作業よりよっぽど手間がかかっているんじゃないかといつも拝見させて頂いております。
    まだそれでも受益者から直接料金を頂けるだけ良いですよ。
    うちなんかは厚生労働省の役人が勝手に決めた値段以上請求する事も出来ませんし、直接請求すら出来ませんから… 時給換算すると悲しくなりますよ。

  2. 厚 生 労 働 省!!
    何だか凄いところで金額が決まっているんですね。初めて知りました・・・。

    費用についてはお察しの通りで、商業的な技術職の場合、時給換算にするとどうしても悲惨な事になりますが、うちの場合はやった事は経験や宣伝等の糧になりますし、BtoC(と言うよりほぼCtoC)ならやればやる程顧客が増えていく!と言う点で、十分還元されているとは思います。

    スイスのスタンドックスマイスター(言葉だけでは無く本当のマイスター)の塗装屋さんと知り合いになって、技術以外に業界の話もするようになったのですが、向こうはボディーショップ(板金塗装店)を始めるのに免許のような物が必要で、それは日本の個人タクシーのように数が限られているから誰でもなれる訳では無いみたいです。その方も祖父から工場と看板を引き継いだと言ってました(私の翻訳が間違っていなければ、ですが)。

    なので塗装屋の数は常に一定数に限られているので値段競争のような事が起きなく、技術さえあればちゃんと食べていけるみたいなシステムが成り立っているみたいです。

    また日本で「塗装工」と言うと悪いニュースに出て来るヤバイ人と思われがちですが(笑)、向こうだと超絶尊敬されるようで、隣近所からは「あそこの人、車の塗装やってるんだってよ!」と、日本とは真逆のヤバい人になるそうです。なんて羨ましい・・・。

    まあそういう事も含め、当方では作業内容や画像を紹介して一般の方にも理解して頂けるようにしていて、ただ「バンパー塗装¥3,000!」とかやっているお店があると一般の方はそれが普通だと思ってしまい、ネチネチやっているレストア屋さんとかは今後厳しくなっていくのだと思います。知り合いの方も「1000万円でレストアしても利益は出ませんよ」と嘆いていました。

  3. いゃ〜正直高いんだろうなと思っていましたが、想像以上でした(^_^;)
    無知な一般ピープルな自分を再認識しました
    以前頂いたキーホルダーが勿体なくて持ち出しにくくなりました
    額に入れて飾ろうかな(笑)
    私も以前は肩書き的にフリーでやってた時期もあるんですが
    そういった値段とかつけるのが苦手で、まぁ技術も無かったんですが
    時間を管理するような計算は出来ないので無理でしたね
    今はお気楽なサラリーマン暮らしを満喫してます、多分(ー ー;)

    • このマウスの場合はちょっと特殊で、下塗り等を含め3~4回分塗っていますから、個数は11部品でも実際は30個くらいを塗っているような感じです。
      マスキングの作業は修正も含め時間が掛かっていますし、耐久性や失敗のリスクを考えると普通は塗らないのが正解なのかも知れません。世界中探してもこれを分解して塗っている人は見当たりませんので・・・。

      ちなみに塗装費用(レーバーレート)には設備や固定経費も含まれているので、例えば自宅(または自社工場)で仕事をしていればもっと金額は下げられます。

      歳をとって仕上がりが悪くなっても今の費用は頂けないので、そうなるとそういった固定経費を下げるしか方法が無く、なので今自前の作業場を確保しようと考えている訳です。

      料金設定は確かに難しいのですが、私の場合元々自動車板金塗装で見積もりをやっていて、そちらはしっかりとしたシステム(参考指数)があったので今もそれを基に算出しています。「これは難しいから」という事で金額が高くなる訳では無く、「これはこれだけ時間が掛かるから」と言う感じですね。所詮商業塗装なのでプレミアが付いたりはしないのです(自身もそれで良いと思ってます)。

      尚、キーホルダーのような規格品の場合、ご依頼主が居ませんからプレッシャーは無く、金額が安いのは普通です。ハンドメイドですがオーダーメイドとは全く違うので、それはそれの金額設定です。あれを作ってくれといったらプレッシャーも掛ける時間も違うので費用は10倍になってしまい売り物にはなりません(苦)。

      私もサラリーマンは3回経験していますが余り(と言うかかなり)合っていなかったと思いまして、これは人それぞれだと思います!(笑)。

  4. なるほど。マウス塗装を何度も依頼している私はかなりの鬼だとわかりましたw

    いつも感謝しています。

    • こちらこそご贔屓頂きまして誠に有難う御座います!

      最初にご依頼頂いてから二日に一回くらい同型マウスのお問合せを頂いておりまして、なのでまさか二回目のご依頼があるとは思いませんでした(笑)。

      お預かりしております二個目のマウスとキーボードは既に組み付けも完了しておりまして、来週早々には完成の紹介~ご案内が出来るかと思います。
      白い方も格好良く仕上がっておりますので是非楽しみにどうぞ!

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