三年くらい前にご依頼を頂いたメルセデスベンツ500E のエアークリーナーボックスです。
車体に装着されている本物は、凸文字とスター部分がシルバーに塗装されているとの事で、ただそちらは経年で塗装が剥がれてしまっていてもう同じ物は入手出来ないと言う事で、こちらの新品部品を使ってその復元のような塗装をご依頼頂きました。
内容としては凸文字の天面部分のみをシルバーに塗ると言う事で、一見簡単そうに思えるのですが、塗装屋的に考えるとこれは非常に難しい内容です。
作業方法としては凸文字の周りをひたすらマスキングすると言う内容で、ただ現状のままだと整形時の歪みからラインがはっきりしないので、まずは表面を削って平らにします。
アルミを削るのと同じように当て板にペーパーを貼り、#120から始めて最終#800の目に均します。
マスキング作業を出来るだけ簡易化させる為、凸文字をトレースしてデータ化し、マスキングシートを作製します。と言ってもそれで済む話では全く無いのですが。
同じように中央のスリーポインテッドスターも外径・内径を測ってマスキングシートを作製しておきます。
石刷り方式で凸文字の輪郭をトレースした物をスキャナーでパソコンに読み込み、ソフトを使ってベクトルデータ化します。
カッティングプロッターで作製したマスキングシートを文字の周りに貼っていきます。
大体「谷」のライン辺りまでのマスキングが出来ました。ただし本当のマスキング作業はこれからです。
カッティング用のマットにマスキングテープを貼り、それをカッターで1ミリくらいの幅にカットしていきます。
大量生産であればここにピッタリと嵌る「型」を作って簡単に塗装を出来るようにする筈なのですが、これ一個だけの為となると、結局こうやってネチネチとひたすらマスキングをしていくしか方法がありません。
ローラーで塗るとかシルク印刷とかUVプリントとか他に良い方法があるんではと色々考えましたが、純正と同じような仕上がりでこれ以外に出来る方法があるのか未だに判りません。
以前別件で御依頼頂いたW124のエアークリーナーボックスのスターは外せたのですが、今回のスリーポインテッドスターは外せない一体成型の構造になっています。
塗装自体はそんなに難しい訳では無く、掛かった時間も99%以上は下地の作業です。
塗り終わってマスキングを剥がしてみると若干色が掛けたような箇所が幾つかあるので今度はそれらを修整していきます。上の画像だと「E」の部分がそうですね。
「山」のプレスライン部分のみを塗るような感じでマスキングしてスプレーします。
黒い部分も塗ってしまえればここまで大変な作業にならなかったのですが、それでは結局純正とは違う仕上がりになってしまうので、当時の量産品と同じように凸部の上部分(天面)のみをシルバーに塗って黒い樹脂部分はそのまま残すと言う内容にしました。
黒い部分は整形時の歪も残ったままですが、これこそがオーナー様の求める仕様だったと言う事です。
ちなみに一般的に古い車の場合は「純正と同様に」と言う方向が多いですが、最近は余りその辺に拘らない「自分仕様」みたいな内容も増えているような気がします。
最近御依頼頂いたBMW E31のテールランプなんかもそうですよね。
ちなみにこういった事は新品が手に入るのであればその方が費用は安く済むと思います。
決して希少価値があるからとか、もう手に入らない物だから塗装費用が高くなると言う訳では無く、単純に多くの時間が掛かるのでそれに伴って費用が上がってしまいます。
元々は大量生産で作られた物でも、後からそれと同じ物を一個だけを作ろうとすればとてつもない時間と労力が必要となります。どうかご理解頂ければ幸いです。