半年くらい前にお納めしたBMW GS80用の巨大なフェーエルタンクで、当時行った作業内容を一連の流れにしてまとめて紹介したいと思います。
このフェーエルタンクの素材はPA(ポリアミド)なる樹脂で、一般的には「ナイロン」と呼ばれている物です。洋服とかによく使われているアレですね。PP((ポリプロピレン)と同様に塗料の密着性が悪い部類の樹脂ですが、塗装不可能と言われたPE(ポリエチレン)に比べれば全然現実的な素材なので問題はありません。
下地処理はいつも通りなのでわざわざここで紹介する事では無いのですが、順を追って画像だけ見れば判るようにと一応紹介しておきます。サフェ研ぎは地味に大変な作業ですし(笑)。
問題大変だったのはカラーリングを「パリ・ダカール仕様」でご依頼頂いていた事で、最初は私も「二色にぶった切ってマールボロのロゴを入れるだけじゃ」なんて安易に考えていたのですが、如何せんタンクが凄い形なのでライン一本引くだけでも右を貼って左を貼って右を剥がして左も剥がしてとか延々繰り返すような大変だった記憶があります。
さらに大変だったのは年式?によって色々バリエーションがある事で、細かい部分はオーナー様に資料を用意して頂き決めて頂きました。
私が行っている塗装はフリーハンドで絵を描くような事とは全く違って、どちらかと言うと「元の状態に復元」といった事がベースとなっているので、基本となる部分を少しずつ積み上げていくような行程で行っていきます。この場合は水平の基準をフェーエルタンクの上部に決めたので(勿論オーナー様と)、そこから各部の配置位置を決めていきます。この辺はウキウキしてやると言うよりも色々な物を消費しながらやっていく感じですかね。苦しい時間が続きます。
ちなみにフェーエルタンクは安定性が悪かったので前後・左右のレベルがちゃんと出せる専用台も作成しています。と言っても単に木材を組み合わせてアルミのアングルやら全ネジを通しただけですけどね。ちなみにこの木製の台はそれを乗せているスチール台に直接ドリルビスで打ち込んでいますので倒れる事はありません。
作業で一番嫌なのは迷いが生じる事なのでとにかく資料を揃える事が癖になりました。ただ単に集めるだけでは無く、イラストを作成したり数値をデータ化して頭の中で作業行程をイメージします。本塗りまでに大体何度か夢に出て来ますが、結構それで問題点が判ったりするのでそれはそれで助かっていますかね(見る夢はどれも失敗で、お陰でそれの回避方法もイメージ出来るのです)。
各配置さえ決まればあとはそんなに難しくはありませんが、今回のオレンジは隠蔽力が弱いので下塗りをしてコート数を減らし、また見切りのラインが汚くならないようにスプレー方向に気をつけて行います。上の画像からするとこの状態でオレンジを塗る場合、見切り部のマスキングの厚みを使って段差を緩やかにする為にスプレーガンのノズルは常に左側を向いています。「スプレーは被塗面に垂直に」が基本ですがその辺は臨機応変という事ですね。
複雑なラインの上にロゴを入れる事自体は問題無いのですが、これを左右同じ按配にするのに苦労しました。左右を対称にする場所とそうで無い場所をちょうど良く組合さなければなりません。昔の商用車などで文字も反転して描いたりしていた物があったと思いますが、多分あれの方が楽な気がします。
最初に決めたラインがズレてしまうとその後それがどんどんと増長してしまって最後は収集付かなくなったりするのですが、地道にひとつひとつを揃えていくとどの角度から見ても違和感無く仕上がるようになります。
インターネットを通じて知り合ったオランダの塗装屋さんがこれからこれと同じ内容の塗装を行うとの事で各部のデータや画像などを差し上げました。いずれ同じような物が出来上がるかも知れませんね。
クリアーはクリスタルクリアーで、一部垂らした箇所があったので磨き処理はしています。
いずれは3Dスキャナーなどで被塗物全体をスキャンして、塗り分けやロゴなどそれぞれの位置をレーザーポインターで示してくれるなんて時代が来るかも知れませんし、またはロボットが塗ってくれるなんて事もあるかも知れませんが私的には結構歓迎です。塗装は塗る作業以外にも下準備の方がかなり奥が深いと思うので、もっとそっちをやれれば面白いと思っています。
元々が修理の塗装で育ったので、派手さと言うよりも細部の仕上がりに重きを置く傾向にあると思います。とにかくラインが平行だとか隙間が常に均一だとか、左右は対象かつ非対称な部分も違和感が無いように仕上げ、「まさか後から塗ったとは思わなかった!」と」思ってくれれば最高ですかね。