レンジローバーオーバーフェンダー下準備

先日お預かりしておりましたレンジローバー純正(オプション)のポリウレタン製オーバーフェンダーです。

中古品なので裏側に接着剤(シーラー)が塗られていますから、まずはそちらをある程度除去します。

PU=ポリウレタン樹脂は、PP(ポリプロプレン)等のオレフィン系樹脂に比べ塗装・接着性には優れているので、逆にこれを除去するのは結構大変です。がっちりくっ付いてしまっているので全てを綺麗に剥がすのは難しく、盛られた厚み分を減らすような感じですね。

シリコンオフ程度ではまるで歯が立たないので、シンナーを使って多少柔らかくなったところを固いヘラでガシガシと削ります。

さらにダブルアクションサンダーで削ります。

半日かけて何とか綺麗になりました。

そして表側です。最初の状態ではワックスが効いてヌルヌルしていたので、アルカリ洗浄槽に浸けて油分を除去しておきました。

ダブルアクションサンダー#120で表面を削ります。ただ素材が柔らか過ぎて切削出来るという感じでは無く、あくまでも傷が付く=足付け処理の為のような感じですね。

その後#180の手研ぎで角などを削り、よく脱脂清掃を行います。

プラスチックプライマー塗布後、極薄くエポキシプライマーも塗っておきました。

続けてサフェーサーを塗布します。黒いザラザラの時は目立たなかったのですが、全体的に巣穴があるのが判るかと思います。というよりこういったポリウレタン系スポイラーの場合、内部は細かい気泡で出来ているような感じなので(発泡ポリウレタン)、表層を削ると穴だらけになるのは当然なんですよね。

巣穴だけでは無くシワのような箇所もあります。

サーフェサーは軟化剤を重量比で20%添加したフレキシブル仕様で、この場合とにかく指触乾燥が遅くなりますから、コート毎に30分程のフラッシュオフタイムを設けてゆっくり塗膜を塗り重ねていきます。

尚ここでは無理に厚塗りはせず、まずは第一層目の下地が作れればと思っています。

なので無理に巣穴を埋める必要は無く、サフェも4コート程に留めておきます。

そもそもサーフェサーに軟化剤を20%も入れるとこれ自体がゴムのようになって削り難くなってしまいますが、今回の下塗りではとにかく割れない為の下地を作るのがメインとなります。ちなみにスタンドックスのテクニカルデータシート上だと軟化剤は容量比15%までとなっていて、昔は容量比30%までOKでは?(重量比では20%)と思っていたのですが、やはりというか日本版?の重量比換算表ではその配合比が残っていました。恐らく「全然削れないよ!」とかクレーム言う人が現れてメインのTDの方では廃止になってしまったのかも知れません。それぞれの特性(用途)が判っていれば何ら問題が無いので、こういうのは非常に残念です。

通常であれば巣穴一個一個筆挿しして埋めていくのですが、今回はあと2回はサフェを塗る予定なのでこの後に期待してそのままとしておきます。

尚、サフェの塗装を数回に別けるのは、極力塗膜が割れ難くなるようにする為でもあります。硬化時に起こる収縮性を分散させる為のような感じですね。

今回の被塗物はこのような感じでとても柔らかいので、フルフレキシブルにした塗膜でもうっかりすると割れてしまう恐れがあり、なので一度に塗る膜厚を薄くしてそれを防ぎ、しっかり硬化させて伸縮しきった塗膜を数層に別けて変形に追随するようにしています。

またこの後はさらに裏側に骨を取り付ける予定で、それによって車体に取り付けるまでにここまで大きく変形させる事はありませんから、任意保険を何重にも掛けるような感じです。仕上がったそれが割れたりしたらもう絶望ですからね…。

それでは作業が進行しましたらまた紹介をさせて頂きます。どうぞもう少々お待ちくださいませ!

BBSホイールセンターキャップ検証

先日お預かりしておりましたBBSのホイールセンターキャップです。

作業着手のタイミングにはまだ早いのですが、施工事例の無い物という事もあったので、先に検証だけしておく事にしました。

まずはいつものように土台部分からアクリルプレートを外します。裏側からドライヤーで温めて両面テープの粘着力を弱め、隙間からシリコンオフを流しつつヘラを差し込んで剥がします。

残った両面テープを綺麗に除去します。

表面に傷が付かないようマスキングをし、裏側を#120→#180→#240のダブルアクションサンダーで研磨して白い被膜を剥がします。

さらに#320→#400で空研ぎ、#600→#800の水研ぎでペーパー傷を均します。

ここまで順調にいっていたようなのですが、

両面テープを剥がした際、メッキ層の一部がアクリル樹脂から剥がれてしまったようになっています(層間剥離)。上の画像だと左側の「B」の右下の方ですね。

こちらは真ん中の「B」の左端の箇所です。

そもそも背面の白のプリント部分もムラがあってどうも怪しいと感じていて、恐らくはアクリル樹脂とメッキ&白の密着具合が良くない構造だったのだと思います。

尚、この時点での成功率は50%ですが、さらにこの後に塗装をするとトラブルが起こる可能性があったので、

追加で同じ物をもう1セット、さらに違う型の物も送って頂きました。

最初にお預かりした物は輸入品との事で、こちらが国産品との事です。

どちらもBBS正規品ですが、全く違います。

BBSの凹み文字はこちらの方が深く掘られています。

背面のプリント(こちらはシルバー)にもムラは見当たりません。

元々施工していた物が左側の輸入品で、右の国産品に比べBBSの彫りがとても浅いです。

また輸入品はランナー(注口)から切り離した箇所の仕上がりが悪く(無くなっちゃってます…)、そもそも製造工程が違のかも知れません。詳しくは判りませんが、例えばこちらは射出成型で、国産品は押し出し成型といった感じでしょうか。

国産品の方は他店での施工事例があるようなので恐らく問題は無いかと思っております。

それでは作業が進行しましたらまた紹介をさせて頂きます。どうぞもう少々お待ちくださいませ!

スバルエンブレム 本塗り

先日本塗りを終えていたスバルエンブレムです。裏側の青い被膜を削り落とし、見る角度で色相が変化するクロマフレア顔料=所謂マジョーラカラーで塗装行いました。

今回使用した色はアンドロメダⅡに該当する物で、これに使われている原色=米JDSU社の顔料をスタンドックスのベースコート用樹脂=MMIX599に混合して使用しています。

尚、今回は最後の仕上げとして、アクリルプレート表面にクリアーを塗装します。

表面を#800→#1300相当の布状研磨副資材(アシレックスレモン→オレンジ)で足付け処理をしてあります。最初の色に比べると全然違うように見えますが同じ物となります。

スバルのエンブレム(PMMA=アクリル樹脂)は長い期間紫外線に当たっていると表面が劣化して細かいクラックが入るとの事で、耐候性の良いアクリルポリウレタンを表面にコートしてそれを防ぐ効果を期待します。

よく脱脂清掃し、プラスチックプライマーを塗ったらクリアーをコートして本塗り完了です。お待たせしました!

今回はクリスタルクリアーでは無く、少し前に導入した常温1時間程で硬化するタイプのクリアーを採用しています。クラス的にはクリスタルクリアーより上位で、ただしベースコートを塗る場合はそこにもハードナーを添加しなければならない為、今回のようにクリアー単体の場合のみの使用が基本となっています。

どちらも同じ色ですが、置く位置によって見る角度が変わるのでそれぞれ違う色に見えます。凄いですよね。

光源に対して正面に立った時の透かしがこういった紫色で、

反対側=光源を背にした時は黄色味が出ます。

クロマフレア顔料についてGoogleのAIに聞いてみたところ、以下のような回答がありました。


クロマフレア顔料の原理は次のとおりです。
  1. 5層構造の顔料フレークが塗料の中でさまざまな方向を向いて定着される。
  2. 光が当たると、表面層で約50%、中央層のオペイク・リフレクター・メタル(Opaque Reflector Metal)で約50%が反射される。
  3. この分光効果で干渉波長(決まった色の波長)が発生し、視覚化される。

この色が見る角度=光の当たり方によって、

ここまで色相が変化するのは面白いですよね。

動画も撮影したのでそちらも紹介します。

ちなみにクロマフレア顔料自体は結構古くからあり、最初に見たのが私が自動車塗装業界に入るよりも前、30年くらい前でした。初めて見たそれはDUPONT社(現CROMAX)のクロマリュージョンカラーと呼ばれる物で、名前としては日本ペイントのマジョーラの方が有名ですが、恐らくこれが一番最初だったのではないでしょうか(同じアメリカの企業ですし)。

ちなみにSTANDOXでもこれっぽい色=Standox Xclusive Lineなる色は存在いているのですが、今回のように原色単体という訳ではないので、こうなると仕方なくベースコートとトップコートを違う会社の物にするか、もしくはマジョーラにニッペ(日本ペイント)のクリアーを使うかなどの方法となり、ただそれは気分的に良くないので当店としてはSTANDOXの塗装システムとして使えるようにしています(顔料単体での販売は契約違反になるとの事でスタンドックスのベースコート用樹脂=MIX599に添加して制作・販売して貰っています)。

それでは完成次第改めて紹介をさせて頂きます。どうぞもう少々お待ちくださいませ!

スバルエンブレム&シルトノブカバー本塗り

先日クリアーの下塗りを行っておいたスバル純正エンブレム前後です。通常であれば60℃40分程の熱を掛けて塗膜を硬化させていますが、今回は常温で硬化するタイプのスタンドックスK9600エクストリームプラスクリアーを使っているので、そのまま作業を行ないます。ちなみに通常は熱を入れないまま塗装を行うと「チヂレ」が発生して最初からやり直しになってしまうので、慣れるまでは結構怖いです。

平面は#1300相当の布状研磨副資材(アシレックスオレンジ)で研磨し、凹んだ六連星部分はナイロンブラシとウォッシュコンパウンドを使って足付け処理を行います。

手で持って塗れるよう芯棒に固定し、台にセットします。

よく脱脂清掃を行います。

既にクリアーが塗られているのでここでプラスチックプライマーを塗る必要はありません。

シルトノブパネルも同じくクリアーで下塗りしてあるのでプラスチックプライマーの塗装は必要ありません。凹んだ箇所は研いで平滑にしておきました。

シフトノブカバーには、最初にアンダーカラーとしてベースコートの黒を塗布します。

スバルのエンブレムは反対側から見るので、黒では無く先にクロマフレアカラー=マジョーラアンドロメダⅡに該当する色を塗布します。分類としてはパールに入るのでこれ単体では隠蔽は出来ませんから、この時点では反対側に貼ったマスキングテープの色味が影響されてしまいます。

なのでクロマフレアカラーがしっかり塗られているかの目安として、黒に塗ったアクリル板に同じ膜厚(コート数)だけ同じように塗って色味の確認をします。ただ今回はシフトノブカバーも一緒に塗っているので実は不要だったんですよね。

クロマフレアカラーは合計4コート塗りました。特注で作って貰っているスタンドックス仕様(MIX599)のこれは、マジョーラに比べると含有量が多いように見受けられ(マジョーラの樹脂に対して顔料がどれくらいの割合なのかは不明なので言い切れません)、なのでそれに比べるとコート数は少なくて済みます。

下色=アンダーカラーの黒を塗った上に当店規定のクロマフレア顔料=CF-ANDⅡを4コート程塗った状態です。

1色(一種類)の顔料でここまで色相の変化を得られるのは本当に面白いですよね。

エンブレムの方は逆の順番で、クロマフレア顔料の後にベースコートの黒を塗布します。

裏側なのでこれで終了でも構わないのですが、2K型の塗料(2Komponente) はクリアー中のハードナーがベースコートに浸透する事によって起こる化学反応(イソシアネート基(−N=C=O)と水酸基(−OH)が反応して生成する−NH−CO−O−の構造)によって塗膜が形成される為、この後クリアーも塗るようにします。

ちょっと専門的な内容=スタンドックスユーザーにしか判らない話になりますが、最初に下塗りとして使った常温硬化型K9600クリアーの場合、溶剤型ベースコートでMSハードナーを20%添加する事が必須となっていますが(HSハードナーの場合は15%、VOCハードナーの場合は10%)、この理由としては、クリアー中のハードナー(この場合エクストリーム専用ハードナー4570~4590)が溶剤型ベースコートの芯までしっかり浸透しない事による物ですね。尚、水性ベースコートの場合はそもそもビスコシティアジャスターを20%添加する事が必須なのでわざわざこの説明は不要という訳です。なので溶剤型ベースコートを使っている当店としては、一見便利なK9600を使う場面は限られているという訳です。

そして最後にクリアーを塗って本塗り完了です。お待たせしました!

クリアーは高品位なタイプのクリスタルクリアーの仕様となります。

スバルエンブレムの裏側にも塗ります。

このクリアー中のハードナーがベースコート=クロマフレアカラー層→黒色まで浸透して一つの塗膜を形成する訳です。

それにしても玉虫色とはよく言った物で、ちょっと角度が変わるだけで色相が大きく変化します。

ちなみにクロマフレア顔料は材料自体が高いので(0.9キロで15万円くらい)、3コート塗装割増とは別に材料費も必要となります。

尚、クロマフレアに似ていても実際にはそうでは無い顔料=クロマフレア風カラーであればそこまで材料費は高くないので追加費用は必要ありません。

模型界隈の塗装ではこれらを総称して「マジョーラ」と呼んでいたりしますが、それは日本ペイントが販売している商品名であって、他にはCROMAX(旧DUPONT)であれば「クロマリュージョンカラー」といった製品があります。これらに使われている原料(顔料)が米JDSU社のクロマフレア顔料「ChromaFlair」という訳です。この辺についてはこちらの記事で紹介していますので宜しければご参照くださいませ。

この後は一晩自然乾燥させ、後日60℃40分程の熱を掛けて塗膜を硬化させます。

それでは完成次第改めて紹介をさせて頂きます。どうぞもう少々お待ちくださいませ!

調色作業

年明け早々に行われるライブイベントで使われるマイク塗装のご依頼が入っているのですが、肝心の被塗物であるマイクが諸々の事情で届かず、なので事前に出来る事を最大限やっておく事にしました(画像は本件とは関係無くイメージです)。

色は以前ご依頼頂いた時と同じもので、その時はそれぞれパントンカラーを参考にしたので塗装用の配合データは存在しなく(パントン色見本帳は印刷物です)、それぞれの塗色については色見本帳を参考にして作成していました(画像は本件とは関係無くイメージです)。

ただ配合データが無いという事は同じ色を作る事はほぼ不可能という事なので、見本としてその時に塗装したマイクを送って頂けるよう算段をつけたのですが、そちらも現在ライブで使っているので届くのは後日という事に・・・(時間が読めない作業は胃が痛くなるので避けたいところです)。

と言う訳ですが、幸いな事にその時見本として塗っておいた色板が手元にあったので、マイクが届く前に色を作っておく事に!

しかも今回は色板が平面で十分なサイズ(5cm四方)があった為、測色機を使ってそれぞれの配合データを入手する事が可能に!

ただパントン色見本帳を参考にして作った色は濁りの無い色味=隠蔽力が激しく弱く、実用的な自動車車体への塗装には使われていないような色が殆どなので、出来上がった色を見てみると使い物になるのは2色くらいのみでした。車のボディに使う色としてはコストやVOC対策の観点から塗料の使用量を抑える必要があり、ある程度の隠蔽力が得られるよう黒や白が入っているのが一般的なんですよね。そもそもこれらの色が車体程の面積になると派手過ぎて不人気になってしまうという事もありますし(インドとかのメーカーならありそうですけどね)。

尚うっかりしていたのですが、今年の春頃に工場のパソコンを買い替えていて、その際に測色機を使う為のソフトを移行していなかったので今の環境では使えない事が発覚しました。

対策としては家に持ち帰って使っていた元々のPCを工場に持って来て測色データを出力して事なきを得たのですが、

折角なので工場外にも持ち出せるようノートパソコンの方にインストールをしておくう事に。

ちなみに測色機を使えるようにするにはスタンドックスのデモマンに来てやって貰う必要があったのですが、その為にわざわざ呼ぶのも申し訳ないと思い、更新版を購入した時に付属していた説明書やドライバを使って色々試してみたところ、無事インストールする事が出来ました。これなら今後「出張測色」も仕事に出来るかも知れませんね(そんな事をやる時間は全くありませんが…)。