LOOK Cycle

look152年前くらいにご依頼頂いた案件で、 このフレームの前にも同じくLOOKのフレームとフォークをショップオリジナルのカラーリングで塗装させて頂きまして、それが気に入って頂けたようでその後こちらのフレームもご依頼頂きました。ただしこちらはちょっと特殊な内容です。

look16 ショップのオーナー様のご要望としては、既存のデザインはそのままに、「「赤い色の部分のみをショップオリジナルカラーの水色に!」と言う事でした。

look17 一見普通の塗装に比べると楽そうな感じがするのですが、各マスキングは既存のロゴと寸分違わず!と言う事で、自転車ユーザーなら判ると思いますが、既存のロゴなどはデカールなので「段差」がありますから少しでもズレると格好悪いのです。これはかなり大変です。

look18 この辺のガタガタしたところも、色を変える(塗る)のは赤い部分だけです。ちなみに下地処理(足付け処理)は全て行い、クリアーはフレーム全体に塗装します。そうじゃないと色分けしたところで爪が引っかかってしまいますので。

look20 一番時間が掛かるのがこの「既存のロゴをデータ化」と言う事で、元々「「LOOK」のロゴデータは持っていますが、実はこれは車体毎に微妙に形が違っていたりするのでそういうのをそのまま使えると言う事は殆ど無いのです。今回も大変でした。

look19 作業方法としてはフレームに貼ったマスキングテープにクレヨンなどを当てて擦って輪郭を描き、それをスキャナーでパソコンに読み込んで一つずつトレースラインを作成します。

look22 しかしパソコン上で作った2次元のデータがそのままピッタリ出来る筈は無く、貼っては修正してカットしてまた貼ってを延々繰り返します。思い付きで作られた試作車を量産体制にする前の工程みたいですが、実際に作るのは1台なのでとてつもなくコスト高な作業となります。

look24 ロゴ以外にも、カーボン地が残る部分もマスキングします。ちなみにこのマスキングは本番では無く、データ作成の為の物です。後に全部剥がして下地処理を行った後に改めて貼りなおします。

look26 今回はさらにショップロゴも追加します。

look27プリントした紙を当てて位置とサイズを確認しています。

look46 全てのデータ作成が終わったら、全体を#800~#1200で足付け処理を行います。

look47 既存のクリアーを削り過ぎて下地を露出させないようにします。

look48 塗料は接着剤とは違うので、ツルツルした面にそのまま塗っても剥がれてしまいますから、表面に細かい傷を付けてこれから塗る塗膜が密着するようにします。所謂アンカー効果とか投錨効果と言われるものですね。

look49 新車の場合はコストの削減か、塗装の工程毎にこの足付け処理が省かれていたりして、最初の数年は大丈夫なのですが、経年で塗膜が劣化していくと表面のクリアーがペリペリと剥がれ易くなって来たりします。

look50 データ化したロゴ等をカッティングプロッターを使ってマスキングシートを作成します。

look52まずはクリアーを塗らない部分をマスキングしたら全体をよく脱脂清掃し、ベースクリアーを塗布します。これは密着剤ではなく、「色の付いていないベースコート」といった感じです。自家塗装だと余り馴染みが無いかもしれませんが、自動車の補修塗装ではむしろこれが基本です。

look53 ベースクリアーを自然乾燥させてテープフリーな状態になったらいよいよマスキングです。ちなみにベースクリアーは硬化剤は入れないので硬化している訳では無く、これから塗るクリアーに含まれる硬化剤成分が浸透する事によって2液変換(反応)が起こります。

look56 赤以外の部分をマスキングし終わりました。

look57 フォークは特に形が歪なので、既存のロゴの通りにマスキングを貼るのが難しかったです。

look58 ベースコートの水色を塗り、マスキングを剥がした状態です。

look59 綺麗に見えますが、細かい部分をよく見ると気になるところがあるので今度はそういった箇所を虱潰しにしていきます。

look60 水色のベースコートを塗るのに使ったのは口径1.0mmのIWATAスプレーガンですが、細部の補修は口径0.3mmのエアーブラシを使います。

look61 結局この日はベースコート(水色)の細かい箇所の修正で深夜にまでなってしまったので、続きのクリアーは翌日となりました。

look62 そしてクリアー塗装です。見た目的には色を塗っているのは水色部分だけですが、実際にはベースクリアー(顔料の入っていないベースコート)は全体に塗ってあるので結局全部色を塗っているのと変わりは無いんですよね。

look63 look64 look28 (1)変わったのは赤い部分だけですが、全然雰囲気は変わりましたよね。

look30当店がが元々行っていた業務は自動車の補修塗装で、これは如何に元の姿に近づけられるかと言う事が基本となり、装飾を加えて格好良くすると言うよりは、むしろ「塗った事が判らないように」といった塗装となります。手作り感と言うのとは真逆で、むしろ機械的な仕上がりです。

look29自動車補修の場合は色の再現性、各ラインの補正、またクリアーの塗り肌まで新車時のものに合わせなければなりませんから、メーカーや車種毎にデータを取ったり、使用する材料や粘度を作業毎に調整したりも普通に行ったりします。ただしそれは自動車補修塗装がちゃんと産業と成り立っているからで、フレーム自体が50万円くらいで買い替えられる自転車の場合は難しいところがあるのです。殆どの場合で「買い直した方が安い」と言うケースになってしまいますからね。

look31 新車時の塗装が低コストで行われているのはやはり一度に大量の製品を作るからで、それと同じようなレベルで小ロットの塗装を行うには当然コストが高くなってしまいます。今回のように一個だけとなるとその費用は数十倍ですよ。

そもそも自動車車体を塗っていた頃と同じ内容で塗装を行うのには当然何かしらのコストを下げる必要があって、小物の塗装にシフトした際の主な変更点としては以下の通りです。

・工場自体を極小規模に

・一日の稼働時間を長く

・休みを少なく。

・工場の一部分を間貸し

といった感じです。と言っても今の塗装の仕事自体が昔からやりたかった事だったので、責任のある事は当然別として、それ以外では心の底から楽しんでやっているので全然大変ではありません。塗装の仕事を一日でも長く出来るように今日の仕事をしている、みたいな感じでしょうか。

look32 下準備に時間を掛けられたお陰で、近くで良くみてもまさか人の手で色分けマスキングがされたとは思えない仕上がりに出来たと思います。

look33 作成したロゴデータ自体はオリジナルを元にしていますし、既存のロゴラインに合わせるというよりかは0.2mmくらい内側にするように貼っているので、ズレなどは無く違和感も感じないと思います。

look34「元の通りに」と言うよりも、こういう風に何もない所に新たにロゴを入れる方が断然楽なのが分かったと思います。費用面で抑えようとしてこういう事は出来ませんので、その辺はどうかご理解下さいませ(フレームがもう一個買えると思います)。