五年くらい前に塗装したAPレーシング社のブレーキキャリパーです。最近お問い合わせを頂いたので改めて一連の流れを施工例として紹介させて頂きますね(ただちょっと画像が足り無いのですが・・・)。
APのキャリパーに良くありがちなのがこの凹み文字部分の塗装の浮きですが、一般的にはこれを見て「熱で塗料が縮んだ為」と思いがちですが実際はそうでは無く、原因は単なる密着不良です。こちらでもよく紹介していますが、アルマイトの上に直接上塗り塗料を塗っても密着はしませんから結局最後はこうなります。これはもう確信犯ですよ。
と言う訳で全体をサンドブラストで表面を荒らし、この後に塗るプライマーが密着するようにします。塗装がされていなければ化学的な方法としてリン酸処理が使えそうにも思えますが、やはりアルマイト皮膜があるとそれも効かないのです。一見アルミ無垢のようみ見えますが、実はこのアルマイト皮膜は塗装する上では厄介なのです。
キャリパーの色は「赤」で承っていますが、リヤキャリパーは凸文字の部分を「白」で御指定頂いていますので、ちょっと変則的ですが先に「白」の塗装で仕上げます。クリアーも塗っているのでここで熱を掛けて一旦完全硬化させます。
その後下地処理をした後に今度は全体をレッドに塗装し、凸文字部分を削って最初に塗った白を露出させたら再度クリアーを塗って本塗り完了です。この部分を白にするだけですが工程としては2回分の塗装を行うので結構手間が掛かっています。
フロントキャリパーは先ほどのリヤとは逆に文字が凹んでいます。こちらも少し変則的な方法で、まずは文字の周りを赤で塗装し、やはり一旦熱を掛けて完全硬化させます(クリアーも塗ってあります)。
尚キャリパー全体を赤で塗っても構わないのですが、足付け処理作業などの手間を減らす為に赤は分部的に留めています。手間を掛ければその分の費用は御依頼主の負担となるので、何でも好きなようにやると言う訳にはいきませんからね。
白を塗るのは文字の周りだけでOKです。と言うか後で除去する事を考えるなら薄膜で済ませた方が間違いなく楽ですので。
その後余分をシンナーやペーパーで除去し、文字の周りをマスキングしたら全体に赤(ベースコート)を塗布します。
その後文字部に貼ったマスキングを剝がし、全体にクリアーを塗って本塗り完了です。
新品などの塗装方法であれば先に本体を塗って後から凹んだ文字部のみ塗装する(または塗料を流し込む)と言う方法になると思いますが、この塗装方法であれば足付け処理はされた上に塗装が行われていますし、最後に全体をクリアーで覆われていますから後で文字部分の塗装だけが剥がれる、と言う事はありません。
ちなみに「費用を抑えたい!」と言う事であれば、御依頼はキャリパー本体の塗装のみで、文字部分は自ら筆で塗ると言うのでも構いません。その場合の塗料はプラモデル用の水性やエナメル系、フタル酸系のペンキなどを使えば失敗しても拭き取れるので大丈夫です(それでキャリパー本体の塗装が溶けると言う事はありません)。
耐久性は無いので定期的に塗り直すと言う事は必要ですが、自分でやるのが好きな方であればそれも良いと思います。
リヤキャリパーは鋳型の仕上げそのままのようですが、フロントキャリパーは削り出しの仕上がりなので、カチっとした塗装との相性はバツグンと思います。
ただし塗装屋の観点からすると、耐久性に関しては塗装よりもアルマイト(硬質)の方が優れていますので(それ故にレーシングキャリパーはアルマイト仕上げな訳です)、見た目を気にするのでなければアルマイトのままの方が良いかも知れません。何事も絶対は無いのです。